産業活動においては、生活者と企業とをつなぐ手段として、あるいは業務を効率化し、生産性を向上させる手段としての携帯電話の可能性が広がってきた(「1.4モバイルソリユーシヨン市場」)。
社会活動においても、携帯電話の位置情報機能を用いた安心安全なサービスの展開や、携帯電話による行政手続きの拡大などが進行している。
このように、ますますその裾野を広げる携帯電話市場であるが、2006〜2007年にかけて、大きな不連続点を迎える。
モバイルナンバーポータビリテイ(MNP)導入、仮想的移動体通信事業者(MVNO)を含む新規事業者の参入、固定通信と移動通信の融合(FMC)の進展、携帯電話向けデジタル放送(ワンセグ)の開始である。
それぞれが、携帯電話市場にどのような影響を及ぼすかは、本編(「1.1モバイルキャリア市場」、「トピックス携帯電話市場への新規事業者参入」、「トピックス2第2次MVNOブームの到来」、「トピックス3FMC」、「4.4移動体向け放送市場」)に譲るが、これらの動きを一言で表現するならば、「競争と協業」の進展である。
真の消費者利益をもたらす「競争と協業」が実現できるか過去の携帯電話の歴史は、競争の歴史であり、競争と技術革新が、新しいサービスを産み出し、料金の低廉化を牽引してきた。
しかし、いまや契約回線数ベースで見た市場はほぼ飽和し、音声通信に代わって成長を牽引してきたデータ通信サービスの収益も、定額制料金の導入によって当面は増加するものの、中期的には成長が止まるだろう。
新しい収益モデルの確立が、市場全体の大きな課題となっている。
このような事業環境の中、新規事業者3社に12年ぶりに門戸が開かれた。
これに加えて、イーアクセスやVとの協業(MVNOまたはホールセール)により、ISP、ケーブルテレビ事業者、流通事業者、金融事業者、情報家電メーカーなど、多種多様なプレイヤーが市場に参入することになるだろう。
携帯電話向けデジタル放送の開始により、携帯電話事業者と放送局との協業が進み、世界的な通信事業者の動きとしてのFMCでは、携帯電話事業者と固定通信事業者の協業が進む。
しかし、これらの協業は、競争という側面も同時に持っている。
顧客の所有権、ロイヤリティをどちらが握るか、というせめぎ合いである。
これらの協業が、当事者間の短期的なウインーウイン関係に終わらず、消費者を含めた長期的なトリプルウイン関係となることを期待したい。
それが実現されるかどうかは、単なる料金競争ではなく、新しい技術やビジネスモデルによる付加価値の創出競争が行われるか否かにかかっている。
我が国の携帯電話契約回線数は、2005年末の約9000万から、2010年末の約1億500万まで、緩やかに増加する。
人口普及率は、71%から82%まで増加するこれを通信方式別で見ると、第3世代携帯電話の比率が、2005年の45%から、2010年には76%まで上昇する。
ただしこの予測には、新規事業者の参入およびモバイルナンバーポータビリテイ(MNP)導入の影響は織り込んでいない。
国内の携帯電話事業者の総契約回線数を指す。
PHS、および自動車や自動販売機などへの組み込み(モジュール)型は含まない。
また、新規参入事業者の獲得分は含めていない。
既存の国内携帯電話事業者の総電気通信事業収入を指す。
新規参入事業者の収入は含めていない。
各年の年央における契約回線数×年平均ARPU(平均利用料)から算出している。
我が国の携帯電話の電気通信事業収入であるが、ARPU(平均利用料)を次の2つのケースで予測した。
ケースは2006年以降ARPU低下速度が遅くなり、前年比マイナス3%となる場合、ケース2は2006年度以降もMNP導入や新規事業者参入などによる料金競争で前年比マイナス5%となる場合である。
ケースでは2005年度の6兆9000億円から微増するが、ケース2では2010年度には6兆3000億円まで減少する。
日本型の販売インセンティブモデルを支えるARPUは、過去数年、前年比マイナス5%前後で減少を続けてきた。
しかし、2005年度上期には、下げ止まりの兆しも見えてきた。
各社のデータ通信の定額料金制度が定着し、ユーザーが料金を気にせず、安心して使える環境が形成され、低ARPUユーザーからの増収分が、高ARPUユーザーからの減収分を上回るようになってきたことが最大の要因と考えられる。
しかし、下期には長期利用割引や家族割引の拡充など、料金値下げの影響が出てくること、2006年秋のMNP導入に向けてさらなる顧客維持のための料金プランが投入されるであろうこと、2008年以降は新規事業者の本格参入による競争が激化すること、などによって、ARPUが再び減少基調に戻る可能性は否定できない。
MNPによる顧客の流動を防ぐため、料金面以外でも、「着うたうル」や「おサイフケータイ」など、事業者を乗り換えるためのコスト(スイッチングコスト)が高まるタイプのサービスが次々と投入されている。
たとえば「着うたうル」では、1曲当たり300〜500円を支払って購入した楽曲は、事業者を越えて持ち出すことはできない。
「おサイフケータイ」では、しくみとしては比較的簡単に「バリュー」を事業者間で移し変えることはできるが、おそらくユーザー心理的には大きな障壁となるであろう。
その結果、2005年第2四半期の平均月次解約率は、Nが0.81%まで、Aも1.21%まで減少してきた。
2006年1月にサービスが開始される「モバイルSUicA」は、スイッチングコストのさらなる上昇につながるであろう。
このような市場全体の流動性低下は、販売代理店のビジネスに大きな影響を及ぼす。
機種変更よりも新規獲得に偏重した販売手数料構造であるため、販売が新規獲得から機種変更へシフトすることによって、手数料収入は下落する。
また、同じ事業者で機種変更をするユーザーは、量販店や併売店よりも、NシヨップやAショップなどの専売店を利用することが多く、専売店量販店併売店のチャネルポートフオリオの調整が必要となろう。
非接触ICカードの搭載、ワンセグ、メモリーの大容量化など、携帯電話端末の高機能化がさらに加速されていく中で、端末調達価格は当面、高止まり状態となろう。
デザイン端末など、端末のバリエーションもさらに増加し、零細な販売代理店では、端末調達のための資金繰りがますます困難になるだろう。
また、専売店の店員は、主に販売代理店が派遣会社を通じて雇用している形態だが、他の業種と比較すると覚えなければならないことが非常に多く、しかも毎日のように更新される。
都市部のショップは混雑し、顧客からの質問も高度化し、クレームも絶えない。
いわゆる「3K」の職場というレッテルを貼られかけている状況であり、採用と教育研修にコストをかけてもすぐに辞めてしまう。
正社員化やシステムによるサポートなどは、体力のある代理店にしかできない。
大手商社系、メーカー系の代理店であっても、本業の不振に対応した事業整理の中で、成熟期に入った携帯電話販売事業の将来方向についての意思決定が迫られており、MNP導入を前に、一部大手販売代理店への集約化がさらに加速すると考えられる。
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